### 夏の風

 

梅雨が明けたばかりの夏の午後、桜子は近所の公園でベンチに座っていた。心が重く、

胸が痛む。その原因はつい先日、彼氏に別れを告げられたことだった。五年も付き合っ

ていたが、突然の別れは彼女にとって予想外で、心の整理がつかないままだった。

 

ベンチに座りながら、彼との思い出が次々と頭をよぎる。初めて手をつないだ時、夜空

を見上げながら語り合ったこと、二人で旅行したこと。それらすべてが遠い過去の出来

事のように感じられた。

 

涙が一筋、頬を伝った。その時、小さな声が聞こえた。「ねえ、お姉ちゃん、大丈

夫?」振り向くと、小さな女の子が心配そうな顔で立っていた。桜子は微笑んで、涙を

拭った。「ありがとう、大丈夫だよ。ただ、ちょっと考え事してたの。」

 

女の子はにっこり笑って、「そっか。でも、泣いてる人を見ると、わたしも悲しくなっ

ちゃうから。」と言って、自分の持っていた小さな花を桜子に差し出した。「これ、あ

げるね。お花を見ると元気になるよ!」

 

桜子はその優しさに胸が熱くなり、小さな花を受け取った。「ありがとう。とてもきれ

いなお花だね。」女の子はうなずいて、「うん、わたしの大好きな花なの。元気になっ

てね!」と言い残し、走り去っていった。

 

桜子はその場にしばらく座り、小さな花を見つめた。そのシンプルな美しさと、女の子

の純粋な心に触れ、少しずつ心が癒されていくのを感じた。ふと顔を上げると、公園の

緑と青空が広がっていて、さわやかな風が吹いていた。

 

「大丈夫、これからまた新しい日々が始まるんだ。」桜子はそう自分に言い聞かせ、ベ

ンチから立ち上がった。そして、一歩一歩、新しい未来に向かって歩き始めた。